市場の総括
週末を挟んだ直近のマーケットは全般に小動きでした。米国株式市場では先週金曜、ダウ平均が前日比-0.3%、S&P500が-0.1%とわずかな下落にとどまり、ナスダック総合は小幅ながらプラス圏で引けています。投資家は米中通商協議の行方や今週予定される米インフレ指標を見極めようとしており、市場全体に慎重姿勢が広がりました。そのため為替相場の変動も限定的で、ドル円は東京時間で144円台半ば、ユーロドルは1.13ドル前後の狭いレンジ内で推移しています。概してリスク選好度合いは低下気味ながら、大きな方向感は生まれていない状況です。
ファンダメンタルズ
米国: 米国では先週のFOMCで政策金利が4.25~4.50%に据え置かれました。パウエルFRB議長は、インフレ率が目標を上回るものの大幅に低下してきた点や労働市場が依然堅調である点に言及し、米経済は「堅調だが不透明感が増している」と指摘しました。一方で、新政権による大規模な関税引き上げがインフレ再燃と景気減速の両リスクを高めているとして、追加の利下げには慎重な姿勢を崩していません。実際、FRBは前年末から段階的に計1.0%の利下げを行った後、今年に入り3会合連続で据え置きを決めており、「スタグフレーション(景気停滞下でのインフレ)への警戒が必要な局面」と説明しています。こうした金融政策の据え置き姿勢に対し、トランプ大統領は「他国は皆利下げしているのにパウエルだけがしない」と不満を表明しており、中央銀行への政治的圧力が高まっている点にも注意が必要です。
米国株式市場では、企業業績自体は堅調です。2025年1~3月期決算はS&P500企業全体で前年同期比+13.6%と予想(+8%)を上回る増益となり、好調な決算が4月初旬の通商摩擦ショック後の株価回復を支えました。ただし先行きの見通しは不透明で、56%もの企業がコンセンサス予想を下回る慎重な利益ガイダンスを示しており(平年は51%)、年内残り3四半期の市場予想利益も下方修正が進んでいます。特に関税問題の最終的な影響が読みづらく、企業側も保守的な姿勢です。株価バリュエーション面では、S&P500の予想PER(株価収益率)が直近20.6倍と過去10年平均(18.5倍)を上回り、割高感が意識されます。加えて米10年国債利回りが4.3%前後と1か月前より若干上昇しており、金利上昇は企業の借入コスト増や株式の相対的魅力低下を通じて株価の重荷となり得ます。このように「良好な現状」と「不透明な先行き」が混在する中、市場は企業業績と政策動向を睨んだ神経質な展開となっています。
日本: 日本では日銀が5月1日までの金融政策決定会合で政策金利を+0.50%に据え置き、予想通り追加利上げを見送りました。同時に「想定以上に景気と物価の下振れリスクが高まっている」として経済成長率とインフレ率の見通しを下方修正し、今後当面は緩和寄りのスタンスを維持する方針を示しました。上田総裁は「基調的なインフレが鈍化する中で無理に金利を引き上げない」と述べ、海外の通商政策を巡る不確実性(米国の関税方針など)が日本の外需を下押しする可能性にも言及しています。実際、日本では食品価格上昇などで消費者物価が一時前年比+3%台となりましたが、最近は賃金の伸び悩みもあってインフレ圧力に一服感が出ています。日銀の慎重姿勢を受け、日本の金利水準は低位で安定しており、この超低金利環境が日本株の下支え要因となる一方、為替市場では相対的な円安圧力として作用しています。ただし、日本企業にとって米中摩擦による外需減速リスクは無視できず、輸出企業を中心に業況見通しに慎重さが見られます。実際4月上旬には急速な円高進行(ドル安)を背景に輸出株が急落し、日経平均は一時18ヶ月ぶり安値水準に沈みました。その後、政府要人による経済対策期待や円高是正で株価は持ち直しましたが、企業マインドには不安定さが残っています。
欧州・その他: ユーロ圏ではインフレ率が足元で2.2%(4月)と目標に近い水準まで低下し、欧州中央銀行(ECB)は景気下支えのため4月17日の理事会で主要政策金利を0.25%引き下げ2.25%とする追加緩和に踏み切りました。ラガルドECB総裁は「不透明感が高くデータ次第でさらなる措置も辞さない」旨を述べており、ユーロ圏でも慎重な金融政策運営が続きそうです。また英国でも、インフレは依然目標を上回るものの経済成長の停滞を受け、イングランド銀行(BoE)が5月8日に政策金利を0.25ポイント引き下げ4.25%としました。投票では追加緩和を主張する委員もおり(5対4での利下げ決定)、景気への配慮が鮮明です。欧州当局者からは「関税措置により短期的に成長率は押し下げられ、インフレも抑制されるだろう」との見解も出ており、米国発の通商摩擦リスクが欧州経済に与える下押し圧力が意識されています。一方で資源国通貨を発行する国々も景気減速に直面しています。例えばカナダでは、4月の雇用統計が市場予想を下回り、政策当局が長期にわたりハト派スタンスを維持するとの観測からカナダドルが下落しました。このように世界的に金融政策は引き締め局面から緩和・据え置き局面へと転換しつつあり、各国とも景気腰折れ回避を最優先に据える状況となっています。
テクニカル分析
ドル円(USD/JPY)
ドル円相場は長期的な高値圏にあります。2022年に一時1ドル=152円台まで急騰した後、ここ1年以上は140円前後を中心としたレンジで推移してきました。月足チャートで見ると、昨年以降の上昇トレンドがいったん一服し、ストキャスティクスは高水準から鈍化傾向、MACDも横ばいで強気・弱気の勢いが拮抗しています。4月初旬には急速な円高(ドル安)が進行して一時130円台まで下落したものの、その後は反発に転じて5月上旬には146円19銭と月間高値を更新しました。しかし現状では50日移動平均線(約146.3円)を目前に上値が抑えられており、週足でも昨年高値152円を起点とする下降トレンドライン付近で上昇が頭打ちになっています。日足チャートでは、4月の急落後に短期的なゴールデンクロスが形成されるなど上昇基調が優勢です。一方で144.28円前後に位置するサポートを明確に割り込むと、短期上昇トレンドが崩れる可能性があるため要注意です。実際、1時間足など短期チャートでも強気トレンド継続中とはいえ、急騰による買われ過ぎの兆候も見られます。ストキャスティクスなどオシレーター系指標は短期的なオーバーボウト(買われ過ぎ)を示唆しており、目先は調整リスクにも警戒が必要でしょう。総じて、目先の上値メドは直近高値圏の146円台後半~147円台、下値メドは144円前後のサポートと見られ、レンジをどちらにブレイクするかに注目が集まります。
ユーロドル(EUR/USD)
ユーロドル相場は中期的に1ユーロ=1.12~1.15ドル前後のレンジ内で方向感に欠ける展開が続いています。今年初めに1.10ドル付近から上昇して4月には一時1.15ドル台後半に達しましたが、ECBの利下げ実施(4月)や米ドルの買い戻しを背景に上値を抑えられました。その結果、週足チャートでは1.15ドル台後半に長期レジスタンス(昨年高値圏)が控える一方、1.12ドル前後に強いサポートゾーンが形成されています。実際、直近の安値水準である1.1260ドル近辺は下値支持帯として機能しており、INGなども「1.1250前後では継続的な支えが入る」と指摘しています。ストキャスティクスは4月上旬の上昇局面で一時高値圏に達した後、現在は中立圏まで低下しており、MACDもシグナルラインと交差して明確なトレンドシグナルを欠く状態です。日足では4月下旬から5月初旬にかけてドル高優勢で反落し、5月7日に付けた安値1.1260前後でいったん下げ渋りました。そこから足元では1.13台前半へ持ち直していますが、依然1.14ドル手前で戻り売り圧力が強い状況です。15分足など超短期チャートを見ても、1.13ドル前後で狭い値動きが続いており、市場は次の材料待ちとなっています。目先、1.1250ドル前後の下値支持と1.14ドル台の上値抵抗のどちらを先に抜けるかが、このレンジ相場を脱する鍵となるでしょう。
日経平均株価(Nikkei 225)
日経平均は4月に入り乱高下の激しい値動きとなりました。4月初旬、米中貿易戦争の激化懸念と急激な円高進行により、日経平均は月曜に18ヶ月ぶり安値となる水準まで急落しました。翌日にかけて6%急騰、週後半も9%を超える暴騰と、週内で上下数千円規模の揺さぶりが発生し、週末時点では週次で-0.6%の小幅安に収まりました。その後、米国による同盟国との貿易交渉進展期待が高まるとともに相場は急回復し、4月18日には34,758.97円と2週間ぶり高値を付けています。これは直近高値圏で、2月の年初来高値(水準は3万5千円近辺)に迫る勢いでした。以降は3万3千円台後半〜3万4千円台を中心に推移しています。テクニカル面では、3万円前後が長期的な重要支持水準として意識される一方、3万5千円付近には戻り高値の壁が存在し、この広いレンジ内で神経質な値動きが続いています。週足チャートでは長い上下ヒゲを伴うローソク足が相次ぎ、市場の迷いを映す形です。ストキャスティクスは4月の急落時に売られ過ぎゾーンに達した後、リバウンド局面で一気に買われ過ぎ水準まで跳ね上がり、直近また下降に転じようとしています。日足チャートでも、34,500円近辺では上値の重さが見られダブルトップ形成の可能性に注意が必要です。反面、33,000円前後には押し目買いが入りやすく、200日移動平均線も走るため強力なサポート帯となっています。目先はこのレンジ内でのもみ合い継続か、それとも材料次第でブレイクアウトするかに注目です。トレンドフォロー型の投資家はレンジ上放れでの追随を狙う一方、逆張り派はレンジ内での上下限付近での売買に徹する局面と言えるでしょう。
センチメント分析
- IMMポジション: シカゴ先物市場の通貨先物ポジション(IMM)からは投機筋のセンチメントが読み取れます。直近のCFTC統計では、円のネットロング(買い越し)が約17.7万枚と異例の高水準に達しており、市場参加者が円高方向へのバイアスを強めていることが示唆されます。ユーロも約7.6万枚の買い越しとなっており、対米ドルでのユーロ高期待がうかがえます。一方でカナダドルは約-7.1万枚(売り越し)と顕著な弱気ポジションが積み上がっており、リスク回避局面で資源国通貨に弱気の見方が広がったことを反映しています。これらのポジション動向から、市場全体が「米ドル安・円高」に傾斜しつつあるセンチメントが読み取れます。
- 恐怖指数 (VIX): 株式市場のボラティリティ指標であるVIX指数は4月上旬の市場混乱で一時30台に急騰しました。その後、米株の持ち直しとともに低下傾向となり、5月8日終値時点で22.48まで低下しています。これは直近ピークからはかなり落ち着いた水準ですが、1年前(13.00付近)と比べると約73%高い水準であり、市場の警戒感が平時より依然強いことを示します。実際、現在のVIX水準は投資家心理が「用心深いがパニックではない」状態と解釈できます。今後、米経済指標や貿易交渉の結果次第で再上昇する可能性も残っており、引き続き注視が必要です。
- ヒートマップ(株式セクター動向): 投資家心理の変化は株式市場のセクター間ローテーションにも表れています。リスクオフが強まった局面では急激な円高も相まって日本の輸出株(自動車や機械など)は大きく売られ、相対的にディフェンシブな内需株や一部の大型ハイテク株に資金がシフトしました。一方、4月中旬以降は貿易協議進展への期待から景気敏感セクターに買い戻しが入っています。実際、4月第3週には海運株指数が週間+2.9%上昇するなど、輸出・素材系セクターが市場を牽引しました。また米国市場でも、金利低下観測を背景にハイテク株や通信サービス株が底堅く推移し、逆に銀行株など金融セクターが伸び悩む場面が見られています。こうしたセクター間の明暗は、市場のセンチメントが「守り」から「攻め」へ揺れ動く過程を反映しています。
- 通貨強弱: 先週の主要通貨パフォーマンスを見ると、安全資産とされる円やスイスフランが比較的強含みで推移しました。一方、米ドルは週の前半に買い戻しで上昇したものの週末にかけて失速し、結果的にほぼ横ばいで引けています。特に金曜には米英間の通商合意報道で一時ドル高となった後、持続力を欠いて反落しており、追加の好材料なしにはドル買いが続きにくい地合いです。対照的に豪ドルやカナダドルは商品市況の伸び悩みもあって弱含み、英ポンドとユーロは対ドルで狭いレンジ内の小動きに終始しました。これらの動きは、市場が概ね「ドル高トレンド一服」に差し掛かっている可能性を示唆しています。リスクオンになれば資源国通貨の自律反発余地、リスクオフが再燃すれば円・スイスフランの一段高余地があり、為替の強弱関係も不安定な状況です。
本日の注目イベントと戦略
本日5月12日(月)の東京市場は、週明けということもありやや様子見ムードが予想されます。経済指標カレンダー上、目立った指標発表は予定されておらず「重要なマクロ統計はない日」となります。早朝に発表された日本の3月経常収支(季節調整前で¥2.28兆の黒字)は市場への影響が限定的でした。また米リッチモンド連銀バーキン総裁の講演が前日夜にありましたが、新味のある政策言及は伝わっていません。このため本日は、明日以降に控えるイベントへ向けたポジション調整とテクニカル主導の値動きになりやすいでしょう。
注目イベント(今後1~2日): 最大の焦点は米4月消費者物価指数(CPI)で、明日5月13日(火)夜に発表が予定されています。インフレ動向次第ではFRBの金融政策見通しが変化し、ドルや株価に大きなインパクトを与え得ます。また5月15日(水)には米4月小売売上高、5月NY連銀製造業景況指数など景気動向を占う指標が発表されるため、市場は週後半に向けて神経質になりやすい状況です。加えて、週末にスイス・ジュネーブで再開された米中通商協議の行方にも要警戒です。協議から公式声明や進展に関する報道が出れば即座にマーケットが反応する可能性があります。欧州関連では、本日欧州委員の通商会談や、明日の独ZEW景況感指数なども控えており、貿易摩擦問題の波及や欧州経済の先行きに市場の目が向かっています。
主要テクニカル水準: イベント待ちで方向感に欠ける中でも、テクニカルな節目は意識されます。ドル円は144.00円前後に短期的な支持水準、上値は直近高値圏である146.50円前後がレジスタンスとして注目されます。ユーロドルは1.1250ドル近辺に厚いサポート、1.1400~1.1450ドル付近にレジスタンスが控え、レンジ突破にはそれら水準の明確なブレイクが必要です。日経平均株価は33,000円前後が下値メド、34,500~35,000円ゾーンが上値のフシとなっており、この価格帯を巡る攻防に注目が集まるでしょう。これらのレベルは短期トレーダーにとって損切り・利食い設定の目安ともなり、終日意識されると予想されます。
短期トレード戦略: 重要イベントを翌日に控えた本日は、新規ポジションは控えめにしつつ、現行レンジ内での逆張りを狙う戦術が有効と考えられます。具体的には、ドル円であれば145円台後半では利益確定売り、144円割れ接近では押し目買いを検討するなど、直近レンジ内での小刻みな売買が中心となりそうです。一方で、万一マーケットが想定レンジを大きくブレイクする動き(例えばドル円が147円を突破、または143円を割り込む等)を見せた場合には、速やかに順方向について行く柔軟性も必要です。ボラティリティが高まる局面では値動きも速くなるため、エントリーの際は指値・逆指値注文を活用して機動的に対応すると良いでしょう。また米中交渉や要人発言のヘッドラインがいつ飛び出すか分からない状況下では、一方向にポジションを傾けすぎないリスク管理が肝要です。常に最悪シナリオを想定し、ストップロス注文を必ず設定しておくことで、不測の急変動による損失を限定する戦略を徹底してください。
以上を総合すると、本日は「様子見ムードの中での小幅な値動き」を前提に、レンジ内の利ザヤ稼ぎを狙う一日となりそうです。ただし明日以降のビッグイベントに備え、ポジションサイズを通常より落とし、防御的なスタンスを維持することが求められます。相場は常にサプライズが潜んでいるため、油断せずマーケットのニュースフローにアンテナを張って臨みましょう。
コメント